永井紗耶子著『旅立ち寿ぎ申し候』(小学館)を読む。
永井作品を読むのは『きらん風月』につづいて2作品(2冊目)。
『旅立ち寿ぎ申し候』は永井さんの初期作品で、現在は『福を届けよ ~日本橋紙問屋商い心得』と改題され、小学館文庫で出ている。
主人公は幕末の若き商人・勘七。
桜田門外の変(1960)をはじめとした幕末の動乱の中、勘七は悩みながらも懸命に生きる。そして、立派な若き商人として成長する。
友の死、友情、恋、そして仕事と、内容は現代に通じる。
実在の人物である勝海舟が登場し、勘七と交流する場面も良かった。
以下、印象に残った文。
商いは、苦しむためにやるものじゃないよ。それを暮らしの糧として、日々を楽しむためのものだ。
紀之介さんは、人を不幸にしません。人を幸せにして、己も幸せになれる。そういう人を見ていると、私はとても安らぐんです
今、ここに至るまで私が商人として残っているのは、運と縁の賜物としか申せません
そして、近江商人の有名な経営哲学、「売り手よし、買い手よし、世間よし」。
自営業の私としては共感する文が多かった。
すっかり永井紗耶子のファンになってしまった。
今は、第169回(2023年度)の直木賞受賞作、『木挽町のあだ討ち』(新潮社)を読んでいるが、これが非常におもしろいのである。